熊野若王子神社は、紀伊国(和歌山県)の熊野参詣にハマった後白河上皇が、永暦元年(1160年)に熊野権現を勧請し、禅林寺(永観堂)の守護神として創祀した鎮守社です。
熊野三山の「那智」に相当し、上皇をはじめ修験者は、若王子神社の背後にある滝(那智の滝を表している)で身を清めてから熊野へ出発しました。
熊野若王子神社は熊野参詣の京都の起点だったのです。なんと、後白河上皇は33~34回も御幸されたそうですよ。京都から熊野まで片道およそ300㎞あり、当時は徒歩で往復1ヶ月かかりました。
東山の麓にひっそり佇んでいる神社です。滝は少し離れているので、忘れずにチェック!
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【1】熊野若王子神社とは
第77代 後白河上皇は、生涯で33~34回も熊野三山に参詣するほど “熊野権現” を信仰していました。しかし、紀伊国(和歌山県)はあまりに遠くて頻繁に参詣することはできません。
そこで、すでに京都に勧請されていた熊野神社(=新宮)に加えて、新熊野神社(=本宮)と熊野若王子神社(=那智)も勧請したのです。
・京都三熊野の那智
後白河上皇は、自らが住む法住寺殿の近くに「新熊野神社(いまくまのじんじゃ)」、東山麓に「熊野若王子神社」を建立して熊野権現を勧請。京に熊野三山を揃えました。
- 新熊野神社(=本宮)1160年 後白河上皇が勧請
- 熊野神社(=新宮)811年 修験道の僧・日圓が勧請
- 熊野若王子神社(=那智)1160年 後白河上皇が勧請
熊野権現(くまのごんげん)
出典:Wikipediaより抄録
熊野三山の祭神である神々。特に主祭神である家津美御子(けつみみこ)(スサノオ)・速玉(イザナギ)・牟須美(イザナミ)のみを指して熊野三所権現、熊野三所権現以外の神々も含めて熊野十二所権現ともいう。 熊野神は各地の神社に勧請されており、熊野神を祀る熊野神社・十二所神社は日本全国に約3千社ある。
熊野参詣、流行のきっかけ
熊野参詣とは、神々の聖域・神秘の地・霊地と見られていた紀伊国(和歌山県)の熊野三山、本宮・新宮・那智を参詣すること。
熊野三山(くまのさんざん)
・熊野本宮大社(くまのほんぐうたいしゃ)
・熊野速玉大社(くまのはやたまたいしゃ)
・熊野那智大社(くまのなちたいしゃ)
上記三つの神社の総称で、現在は世界文化遺産に登録されています。
熊野信仰が熱狂的な高まりを見せる最初のきっかけは、白河上皇(1053~1129年)による熊野御幸。1090年から亡くなる前年までに合わせて9回。後白河上皇(1127~1192年)にいたっては33~34回も御幸され、熊野参詣を盛り上げました。
その後、室町期以降になると武士や庶民の間でも熊野参詣が流行し、切れ間なく旅人の行列ができた様子から「蟻の熊野詣」と称されました。
さらに江戸時代には、信仰心の篤さを「伊勢に七度(ななたび)」「熊野へ三度(さんど)」と言うようになっていました。
※ちなみに、始めて熊野御幸をした上皇は宇多法皇で907年の事。その後、992年に花山法皇も詣でていますが、これらの御幸は単発だったため、熊野参詣が流行するきっかけにはなりませんでした。
・熊野若王子神社の歩み
- 平安時代末期の1160年、後白河上皇が禅林寺(永観堂)の守護神として、熊野権現を勧請して創祀した鎮守社で、那智分社とされました。
- 鎌倉時代は武家の信仰を集め、鎌倉幕府初代将軍・源頼朝が寄進。
- 13世紀後半、第90代・亀山天皇(在位:1260-1274)が、東山に離宮禅林寺(後の南禅寺)を造営。当社を鎮守社とし、禅林寺新熊野社と称したともいう。
- 南北朝時代、室町幕府初代将軍・足利尊氏は淡路国由良荘を寄進。天台座主・良海僧正を当寺別当に任じた。以来、管主は修験道を兼職し、本山山伏の棟梁になった。聖護院門主の入峰に際して先達を務めた。
- 応仁・文明の乱(1467-1477)で社殿は荒廃。
- 江戸時代、若王寺僧正澄存(ちょうぞん、?-1652)が再興。聖護院門跡院家として、「正東山若王子乗々院」と号した。熊野詣の始発地のために、具足商人の崇敬を得る。境内に、桜、楓が多く植えられた。
- 明治時代、神仏分離令後の廃仏毀釈により聖護院より離れた。南面して4社殿(本宮、新宮、那智、若宮)があったが、後に一社相殿に改築され現在に至ります。
後白河天皇は熊野参詣のみならず、今様(流行歌)を愛好し『梁塵秘抄』を撰するなど文化的にも大きな足跡を残されています。
【2】ご利益
熊野若王子神社は、学業成就・安全祈願・縁結びの信仰があります。
ご神木は、鳥居の前に植えられている「梛(なぎ)」。種々の悩み事をナギ倒すと言われ、葉っぱのお守りもあります。
・学業成就、安全祈願、縁結び
日本神話の天地開闢(てんちかいびゃく/世界が生まれた時)に現れた、神世七代(かみのよななよ/七代の神)の一代・国常立神、七代・ 伊佐那岐神&伊佐那美神と、その子天照大神がお祀りされています。
祭神
- 国常立神(くにとこたちのみこと)
- 伊佐那岐神(いざなぎのみこと)
- 伊佐那美神(いざなみのみこと)
- 天照大神(あまてらすおおみかみ)
若王子とは?
若王子は天照大神(あまてらすおおみかみ)の別称で、神仏習合の神「若一王子(にゃくいち おうじ)」にちなみます。
熊野本宮大社・熊野速玉大社では第4殿、熊野那智大社では第5殿に祀られています(いずれも、現在は「若宮」と称し、天照大神のこととしている)。
・導きの神、八咫烏もチェック
熊野の神様のお使いは3本足の「八咫烏(やたがらす)」。
「勝利を導く守り神」としても知られ、 日本サッカー協会のシンボルマークにも採用されています。
八咫烏とは
日本の建国神話(神武東征)では、神武天皇が日向(宮崎県)から橿原神宮(奈良県)へ向かう際、八咫烏が山深い熊野を案内する役割を担ったとされます。
そのため、熊野那智大社・熊野本宮大社・熊野速玉大社の熊野三山では八咫烏が祭られ、導きの神として篤く信仰されています。「八咫」とは大きく広いという意味があり、八咫烏は太陽の化身といわれています。三本の足は天・地・人をあらわし、太陽の下に神様と自然と人が血を分けた兄弟であるということを示しています。
拝殿に掲げられた扁額「熊野大権現」の文字の中に、カラスがデザインされています。三羽、二十羽?何羽みつかるでしょうか?
物事は色々な視点から見なければならない、という思いが込められているそうで 正解はないそうなので、見つからなくても大丈夫。
熊野権現の使徒、八咫烏を探してみましょう!
【3】滝と末社
末社は熊野若王子神社の境内と、少し離れた山の中に点在しています。
滝の場所はちょっとわかりにくくて、東にある石段と民家の間を入ったところにあります。石段を上ってしまうと、滝を見ることは出来ませんのでご注意!
・恵比須社(夷川恵比須社)
本殿の左側に鎮座されている恵比寿神は、開運・商売繁盛の信仰で有名な神様です。
宝暦11年(1761年)に書かれた「京町鑑」によると、 かつては夷川通(小川通夷川東入ル付近)にあった蛭子社が応仁の乱(1467年~1478年)で被災。不思議に神像は残り、熊野若王子神社境内に祀られたと伝わります。
恵比寿神像は木造寄木造り等身大の坐像で、ライティングされているので良く見えます。
・洛中のお滝|天龍白蛇弁財天
洛中のお滝は、那智の滝のミニチュア版という感じ。
上皇をはじめ修験者は、この滝(那智の滝を表している)で身を清めてから熊野へ出発したそうです。滝の前に鎮座しているのは天龍白蛇弁財天。
この他に、背後の東山中に三解(みとけ)社、本間龍神、瀧宮神社、福寿稲荷大神、千手滝不動尊、不動尊なども祀られています。
小さい滝があるから、那智大社と結びつけられたのでしょうか。山深く神聖な雰囲気です。
【4】授与品
さまざなな授与品が用意されています。
一部をご紹介します^^
・御朱印
・八咫烏のおみくじ、絵馬
本物のカラスは怖いけれど、フレンドリーな表情が可愛い八咫烏のおみくじです。
【5】熊野若王子神社アクセス
近くに電車の駅はありません。
一番最寄りのバス停「宮ノ前町」には、市バス32系統、100系統が停車します。
「南禅寺・永観堂道」 は5系統
[最寄りバス停]
・市バス「宮ノ前町」より 徒歩約8分
・市バス「南禅寺・永観堂道」より徒歩約10分
・市バス「東天王町」より 徒歩約12分
地図のB地点が「熊野若王子神社」
A地点 地図の上「宮ノ前町」、中央「東天王町」、下「南禅寺・永観堂道」
・京都駅バスターミナルから
★京都駅前バスターミナルのりば案内
[D1のりば] 市バス100 清水寺祇園・銀閣寺行 「宮ノ前町」まで約32分。
[A1のりば] 市バス5 銀閣寺・岩倉行「南禅寺・永観堂道」まで約36分。
・四条河原町から
[Hのりば]
市バス32 平安神宮・銀閣寺行「宮ノ前町」まで約18分。
市バス5 平安神宮・銀閣寺・岩倉行「南禅寺・永観堂道」まで約18分。
・四条京阪から
[Aのりば] 市バス 203 祇園・錦林車庫行「東天王町」下車。
※東天王町まで約15分。
※京阪電車「祇園四条駅」構内からは、7番出口が近いです。
最寄りバス停からは徒歩10分前後。銀閣寺から、哲学の道を通って訪ねるものおすすめです。
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※この記事の史実に関する記載は、熊野若王子神社公式サイト、駒札、 書籍「京都の寺社505を歩く」、Wikipedia、コトバンク等を参考に作成しました。
熊野若王子神社(くまのにゃくおうじじんじゃ)
所在地 京都市左京区若王子町2
TEL.075-771-7420
境内自由
授与所 9:00~17:00
熊野若王子神社 公式サイト